はじめに — 前編からの続きとして

前編では、子どもの頃から感じていた「一人」という感覚、そして自然や人との関わりの中で見えてきた「おひとりさま」という生き方の哲学について綴った。
後編では、私が実際に山や村で暮らし、人との関わりと孤独、自立と共生のはざまで感じたことを通して、今の「おひとりさま」という価値観にどうたどり着いたのかを振り返ってみたい。
自然とともに生きる知恵との出会い

自然学校を経て、なりわい塾に参加した私は、人間が自然の恵みを得ながら、それを暮らしに生かす工夫がいくつもあることを知った。
林業や農業、保存食づくりなど、消費社会ではお金だけでは得られない知恵がそこにはあった。
私はそんな知恵や「生き残りの文化」に惹かれ、もっと深く学びたいと思い、長野県最北端の秘境と呼ばれる山奥の村へ移住することを決めたのだった。
山奥での暮らしの始まり

移住して最初の一年は、村の人たちとの関係を築くことに注力した。
顔を合わせて話を聞き、祭りや集落維持の行事に参加し、酒を酌み交わす。
そうして少しずつ村の暮らしに触れていく中で、二年目には山の恵みや知恵を教えてもらえるようになった。
山菜の採り方、保存食の作り方、田畑の管理、積雪期の家の守り方。
現物の恵みをいただくだけでなく、それを生かす技術を学ぶことができ、フリーペーパーの発行や飲食販売など、自分なりの活動にもつながっていった。
「一人で生きる」という問い

しかし三年目に入るころ、私はふと考えるようになった。
——この地で本当に一人で生きていけるのだろうか。
仕事や収入の問題もあったが、それ以上に、豪雪の山奥で女一人の力で暮らしを維持していくことが現実的に可能なのかが心配だった。
大量のカメムシ、迷い込む蜂や蛇。
雪囲い、屋根の雪下ろし、スタックした車の掘り出し。
田畑や水路の管理、買い出しに片道2時間。
そして集落の自治活動。
——すべて、お金では解決できないことばかりだった。
甘えずに生きるという覚悟

もしかしたら助けてもらえる場面もあったかもしれない。
もっと甘えてもよかったのかもしれない。
でも村の人たちも仲間たちも、それぞれ家庭を持ち、支え合って暮らしていた。
だからこそ、私は「一人で暮らすなら自分でやる責任がある」と思っていた。
村を離れる少し前、親身になってくれていたお姉さんのような人と一緒に栗を拾っていたとき、私はぽつりと言った。
「わたし、この村は大好きなんだよ。嫌いで出ていくんじゃないんよ」
彼女は手を止めずに言った。
「当たり前だ、わかってるって」
その瞬間、胸の奥に溜まっていたものが静かにほどけていくのを感じた。
寂しさと同時に、自然の恐怖や文化を背負う重さから解放される安堵もあった。
自立と共生のあいだで

振り返ると、山での暮らしは水路を維持し、景観を守り、山菜を採り、祭りをし、登山道を整備し、観光客を迎え、高齢者を見守る——
そんなすべての営みが「人との関わり」で成り立っていた。
けれど、生活の多くは自分の手でこなさなければならない。
助けを求めることもできたかもしれない。
でも、村で気づいたのは「自立した者同士が助け合ってこそ村は成り立つ」ということだった。
誰かに甘えなければ生きられない自分では、村の一員としての責任を果たせない——そう悟った私は、村を出る決意をした。
街へ戻って、また一人になる

その後、別の地域へ再移住を試みるも挫折し、また実家に戻る。
まるでRPGでゲームオーバーして、始まりの場所に戻るみたいだった。
街の暮らしに戻ってもう五年。
人間関係に悩み、組織の中で腐り、もがき、壊れながら生きてきた。
そして今はもう、「誰かに」「何かに」期待して生きるのをやめた。
一人ではないけど、一人である

街には人があふれ、サービスもビジネスも溢れている。
お金で何でも解決できるように見えるけれど、人は必ず誰かと関わりながらこの世界を支えている。
社会は人を“完全なひとり”にはできない。
だけど、自分の生きる道は自分にしか作れない。
どんなに仲間がいようと、家族がいようと、
自分の人生をつくる魂は——一人でしかない。
おひとりさまという自由

子どものころの孤独、初めて自分を肯定してくれた友達、
山や自然の中で出会った人々、
そして街での暮らし。
そのすべてを通して、私はようやく
「一人であり一人ではなく、一人ではないけど一人である」
という言葉の本当の意味を、自分の中で理解した。
どんなに逃げても、人は社会の一部であり、関わりの中で生きている。
けれど、自分の人生は自分で選び、自分の時間を自分のために使う自由がある。
Time=Life

若い頃の私は「Time=Money」だと思っていた。
でも今は、「Time=Life」だと思っている。
時間は、生きることそのもの。
どう考え、どう感じ、どう喜んで生きるか。
そのために私は、自分のために生きる時間を大切にしたい。
それが、私にとっての「おひとりさま」だ。
終わりに — 感謝とともに

この世界を支えてくれている人々に、
先人たちに、
そして私を生んでくれた両親に、
心からの感謝を。
そして、私の中の「私」を愛したい。
これまで傷ついてきた自分を褒めてあげたい。
本当の心の望みを、これからは叶えていきたい。
だから私は、これからも
「おひとりさま」を大切にして生きていこうと思う。


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