気まぐれな目的地変更からスタート

11月16日、名古屋インターを8時半に出発しました。当初の目的地は比叡山だったのですが、土山サービスエリアで休憩していた際、急に「今日はどうしても多賀大社へお参りしたい」という気持ちが生まれ、行き先を変更することにしました。
神話に目覚める

その背景には、最近古事記の世界に惹かれはじめたことがあります。神々の系譜や物語に触れるうちに、「これからさまざまな神社へお参りし、神々とのご縁を辿ってみたい」と思うようになりました。けれど、どこから始めるべきかと考えたとき、自然と心に浮かんだのは 八百万の神々の父母である伊邪那岐大神と伊邪那美大神。
神社巡りを始めるなら、まずは“親神”にご挨拶するのが筋のように思え、多賀大社が私にとって最初の一歩になりました。
彦根インターを降りて走っていると、目の前にのどかな景色が続き、空気が徐々に澄んでいき、周囲には寺社仏閣を示す看板が次々と現れます。このあたり一帯──紀伊・近江に跨る地域──は、伊勢・熊野・比叡山など日本の信仰の中心を成してきた極めて重要な宗教文化圏であることを、景色からも肌で感じました。
「日本の祈りの道」はまさにこの地から広がっているのだと、実感を伴って理解できた瞬間でした。

駐車場情報

多賀大社に到着すると、すぐに案内係の方が立っており、お土産屋さんの駐車場へ誘導されました。料金は500円前払い。正門がすぐ近くで非常に便利でした。
後から神社専用の無料駐車場があることを知りましたが、この日は七五三で大変混雑していたため、有料駐車場を選んだのは正解でした。
境内の雰囲気


正門の鳥居をくぐった瞬間、黄金に染まるイチョウと真紅のモミジが目に飛び込んできました。七五三で賑わう家族連れの笑顔に秋の彩りが重なり、境内は華やかでありながらもどこか柔らかい気配に包まれていました。
秋の最盛期を迎えた紅葉が、参拝の時間をより特別なものにしてくれました。
御祭神

多賀大社には 伊邪那岐大神 と 伊邪那美大神 が祀られています。『古事記』で国産み・神産みを行った二柱であり、すべての神々の親神です。
古来より多賀大社は
「お伊勢参らばお多賀へ参れ お伊勢お多賀の子でござる」
と謳われてきました。伊勢神宮の天照大神は伊邪那岐・伊邪那美の御子にあたるため、昔の人々は「子を祀る伊勢に参るなら、まず親である多賀に参るべき」と考え、両社をセットで巡る習慣があったのです。
信仰の広がりと精神文化の深さを象徴する言葉だと感じました。
境内の見どころ

● 本殿
伊邪那岐大神・伊邪那美大神を祀る荘厳な社殿。時代を超えて人々の祈りを受け止めてきた静謐さがあります。

● 太閤橋
豊臣秀吉が母・大政所の病気平癒のお礼として寄進したと伝わる石橋。今は渡れませんが、秀吉と多賀大社の深い縁を語る重要な史跡です。

● 日向神社
境内摂社のひとつ。天照大神の孫神・瓊瓊杵尊を祀り、延喜式内社を起源とする由緒ある神社です。地域の守護神として信仰されてきました。
天孫降臨として天照大神の孫である瓊瓊杵尊が、高天原(神々の世界)から地上へ降り立ち、日本の国を治める基盤を築いたとされる神話があります。
日本の国の始まりや皇室のルーツを語る非常に重要な場面です。


● 夷神社
商売繁盛・福徳の神、事代主神を祀る社。
11月20日には例祭が行われ、昔から地元の商人たちがこぞって参拝したという歴史が残っています。

● 太閤蔵
秀吉ゆかりの宝物を収めた蔵で、秀吉が奉納した品や古文書などが収蔵されています。母のために祈願した多賀大社との深い縁を物語る貴重な施設です。

● 梵鐘
室町時代(1555年)に地元有力者が寄進したと伝わる梵鐘。神社境内に梵鐘が現存するのは珍しく、神仏習合の名残を今に伝える重要文化財的な存在です。

● 神輿庫
毎年4月22日の「古例大祭」で使用される神輿が保管されています。神様が地域を巡り、災厄を祓い祝福を授けるとされる伝統行事の象徴的存在。

● 大釜
江戸時代に奉納されたといわれる大釜で、かつては神事や大人数の参拝者への振る舞いに使われたとも伝えられています。古い生活文化の名残を感じる一品。


● さざれ石
国歌「君が代」に詠まれる象徴的な石。
小石が長い年月で凝固し大きな岩となった石灰質角礫岩で、永続と団結の象徴として大切に祀られています。

● 金咲稲荷(かねさきいなり)— 赤い鳥居が異世界の入口みたいなお稲荷さん

本殿の右手へ進むと、ずらりと並んだ赤い鳥居が目に飛び込んできます。
その光景がなんだか“異世界へ続く入口”のようで、少し緊張してしまいました。
でも、その先にあるのが多賀大社の末社 金咲稲荷 です。
祀られているのは、稲や食べ物の恵みをつかさどる 宇迦之御魂神。
穀物の豊かさはそのまま生活の豊かさにつながることから、
(金 が 咲 く → 金運が開ける)
という名前の縁起の良さもあって、商売繁盛や金運祈願の人気スポットになっています。
実際、私が訪れたときもたくさんの参拝者がいて、みんな熱心にお参りしていました。
あとから地図を見て知ったのですが、金咲稲荷の先には小さな川が流れていて、その向こうへ抜けられる道があるんですね。どうやらその先に 御神田(おみた) があったようで、「ああ、ここでお米を育てていたんだ」と思うと、稲荷神社とのつながりをしみじみ感じました。

稲荷神はもともと“稲(いね)”の神様。
豊穣や実りの象徴でもあり、やはりお米と神様は深くつながっていますね。
● お多賀杓子
多賀大社を象徴する縁起物。

奈良時代、元正天皇が病に伏した際、当社の神主が作った杓子で強飯を献上したところ病が快復したという故事がルーツで、延命長寿・家内安全の象徴として今も多くの参拝者に授与されています。
この巨大な石の杓子を撫でるとご利益ありという事でみんなヾ(・ω・*)なでなでしておられました。
ちなみに蛙の子供「おたまじゃくし」の語源にもなっているという説もあるそうですよ。
参拝の印象

境内は広すぎずコンパクトながら荘厳で華やかでした。七五三の時期だったこともあり賑わいがありつつ、すべての父母である二柱の温かさに包まれ、見守られているような感覚を覚えました。本当はひとり旅として静かに神様を感じたい気持ちもありましたが、子供たちが元気にはしゃぐ姿や若い父母のてんやわんやする様子を眺めていると、人間の一生の一幕を客観的に感じる時間となりました。忙しく一人ずつ順番に見守る伊邪那岐大神・伊邪那美大神の姿を想像し、子供たちがたくさんいることを喜んでいるのだろうと感じました。
“親神にご挨拶したい”と願って訪れた場所で、人間の営みの美しさとあたたかさを目の当たりにし、胸が満たされる時間となりました。
門前町

こじんまりとしてましたがお土産や軽食などのお店が並んでにぎわっておりました。
お土産には糸切り餅

多賀大社名物 「糸切餅(いときりもち)」 は、
白い棒状の餅に 赤と青の三本線 が入った、滋賀県・多賀大社門前でしか買えない銘菓です。
名前のとおり、三味線の糸で餅を切って仕上げるのが最大の特徴です。
赤・青・白の三色は、多賀大社の御神紋を表し、
「長寿・厄除けの三筋」として縁起が良い色とされています。
三味線の糸を使うのは「きれいに切れるから」らしいのですが
民謡好きの私としては三味線の糸で切るというところが何とも気に入りました。
こしあんで、ふんわりもっちりでお上品な美味しさでした。
まとめの一言
多賀大社は、歴史の深みと季節の美しさ、人々の祈りが交差する場所でした。
紀伊・近江という日本の信仰文化の中心地に息づく神社としての重みを感じつつ、神々の世界への最初の一歩としてこれ以上ない参拝になったと思います。


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